子育て×哲学×社会学「この青空を、君へ」

父から息子へつなぎたい思想

この青空を、君へ-2024年3月23日 息子の卒園式に寄せて-

君は「空」という言葉を聞くとき
どのような空を思い浮かべるだろうか?

青空だろうか?
夕焼けに染まる赤い空?
満天の星が広がる夜空?

いつか登った山の頂上から見た空?
どこまでも続く水平線が綺麗だった浜辺の空?
毎朝、登園の時に見た新幹線の線路越しの空だろうか。

パパの背中が邪魔で新幹線が見えなかったのはゴメンて。

電車好きの君だから、念願叶って乗れたロマンスカー展望席から眺めた空や
上野東京ライングリーン車の2階席から見える空と言うかもね。

「空」という簡単な言葉ですら、
人によって思い浮かべる「空」は違う。

パパが思い浮かべている「空」と
君が思い浮かべる「空」は
まったく同じ「空」ではない。

これが言葉の「限界」であり、
「可能性」だとパパは思う。

どんなに一生懸命言葉を重ねても、
まったく同じ「空」を説明する事はできない。
それが言葉の限界だ。

同じ理由でまったく同じではないからこそ、
パパが描く「空」を引き継ぎつつ、
君は新しい「空」を描く事ができる。
これが言葉の可能性だ。

だから、言葉に限界があるからと言って、
言葉を伝えることをあきらめないでほしい。
言葉を磨いてほしい。

言葉は多義的になってしまう。
でも、言葉を磨き続けると、こう言われる事がある。

「それは、あなたの言葉だ」

何を言うかよりも、
誰が言うかが大切な時がある。
言葉にその人の魂が宿ることがある。

まず、その事を君に伝えたい。

この3年で口達者になってきた君。
いたずらした後の言い訳には目を見張るものがある。
言葉を磨くのは、大切だが、次から次へと論破していくのはやめてね(汗)
論破からは何も生まれないから。

ところで、「空」って本当にあるのだろうか?
「空」は本当は無いかもしれない。

昼の空が青いのはなぜだか知っている?

おひさまの光は実は何種類もある。
昼はおひさまと地球の距離が近くなる。
その時、青い光が一番見えやすい。

夜はおひさまと地球の距離が遠くなる。
その時、赤い光が一番見えやすい。

つまり、おひさまと地球の「関係性」が空の青さを作っている。

おひさまだけでは、「空」はできない。
地球だけでも、「空」はできない。

「関係性」が「空」を作る。

物理学者のカルロ・ロヴェッリが「時間は存在しない」という本の中でこんなことを言っている。

時間は「存在する」ものではなく、「起こる」もの。
他者との関係性、相互作用があったときに、時間は起こると。

そう考えてみると、「世界」というのも本当は無いかもしれない。
人と人との関係が結ばれたとき「世界」が立ち現れる。

1人で世界は作れない。
世界は関係性でできる。

関係性は、大切な仲間との間に生まれることもあるだろう。
時には、分かり合えない人達とも関係を築く事があるだろう。

これが正しい「空」だ!という「空」が無いように、
これが正しい「世界」だ!という「世界」もない。

その時の人と人の関係性の間に「世界」は生まれ、
その距離感によって、「世界」の見え方も変わる。

青空だったり、朝焼けだったり、夕焼けだったり、夜空だったりね。

唯一の「空」を見つけるのではなく、
たくさんの「空」を好きになってほし い。

君に伝えたい、2番目のこと。

関係性が大事とはいえ、
ベタベタするのとは、ちょっと違うよ。

君を抱きかかえたまま保育園の玄関を開けようとすると全力で拒否するのに、
家ではしつこいくらいに「抱っこ抱っこ」言うのはどうして?(笑)
そろそろ、うちでも抱っこはやめようか。小学生になるし。

そんなこと言わなくてもいつか抱っこさせてくれなくなるよね。悲しい(笑)

そうそう、「空」は、「くう」とも読む。

仏教では、「有」でも「無」でもないものを「空(くう)」という。

パパの好きな歌がある。

 引き寄せて 結べば柴の庵(いおり)にて
 解くればもとの野原なりけり

庵は、柴を結ぶことで有る。
柴をほどけば、庵は無くなる。

結ぶという行為が、「空(くう)」なのだと教えてくれる歌だ。

これも関係性が何かを生み出すという話しと似ているね。

人と人との関係性を大切にしてほしい。
目に見えるものだけではなく、
目に見えないものにも注目してほしい。

雷を怖がり、風を怖がる君。
雷神様と風神様がいると信じている君。
特に今年の風は強いね。

寝癖なんか気にしていなかった君が、
急にクシを使うようになり、やっと整えた髪の毛が強風でオールバックになる姿にパパはついつい笑ってしまうよ(笑)
あ、パパも定期的にオールバックだ(笑)

最後に、
パパの尊敬する見田宗介先生の言葉を借りよう。
世界の変え方だ。

君がこれから生きる世界は、
きっとパパが生きてきた世界よりも複雑で、
どんな方向に進むかわからない。
誰も答えを持っていないし、教えてもくれない。

だから、自分の力で考えて行動する必要がある。
でも心配しないで。

何か唯一の世界や正しい選択があるわけではなくて、
人と人との関係性が世界を作ると言ったね。

だから、人と人との関係性をどう作っていくかが鍵になるよ。

「自分1人の力なんてちっぽけだ」

って反論するかい?

パパはそう思わない。
この言葉を信じているから。

一つの純粋に論理的な思考実験を行ってみる。

一人の人間が、
一年間をかけて一人だけ、
ほんとうに深く共感する友人を得ることができたとしよう。

次の一年をかけて、
また一人だけ、生き方において深く共感し、
共歓する友人を得たとする。

このようにして10年をかけて、
10だけの、小さいすてきな集団か
関係のネットワークがつくられる。

新しい時代の「胚芽」のようなものである。

次の10年にはこの10人の一人一人が、
同じようにして、10人ずつの友人を得る。

20年をかけてやっと100人の、
解放された生き方のネットワークがつくられる。

ずいぶんゆっくりとした、
しかし着実な変革である。

同じような〈触発的解放の連鎖〉がつづくとすれば、
30年で1000人、
40年で1万人、
50年で10万人、
60年で100万人、
70年 で1000万人、
80年で1億人、
90年で10億人、
100年で100億人となり、

世界の人類の総数を超えることとなる。

現代社会はどこに向かうか』(見田宗介)より。

そんなの、自分の生きている間になんか無理だよ!

そんな声が聞こえてきそうだね。

それでいいじゃないか!

パパの恩師、田坂広志先生はこう言った。
「野心」と「志」は違う。

己一代で、何かを成し遂げようとする願望。
それが「野心」です。

己一代で成し遂げ得ぬほどの素晴らしき何かを、次世代に託する祈り。

それが「志」です。

と。

さて、結びだ。

言葉には限界と可能性がある。
言葉ですべてを伝えることはできない。
でも、言葉を磨いていけば、”あなたの言葉”が残りつづける。
その言葉にはさらなる解釈の余地と可能性がいつでも開かれている。

先人から受け取った大切な言霊を君が受け継ぎ、
さらに磨いて次世代に引き継ぐ。

その連綿と続く関係性が、50年も100年も1000年も続いていけば、
きっと「世界」は、カタチを変えつつも明るく有りつづける。

君が見た、描いた「空」を次世代につないでほしい。

そして、今は、パパが君に伝え続けよう。

この青空を、君へ

卒園、おめでとう!

今日の空は曇り空だった。
でも、「曇り空」のその先はいつだって「青空」だ。

この言葉は、君のことを誰よりも可愛がっているじぃじの受け売り(笑)

パパより。

お題「心に残っていることば」